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人類学者の教育学 ~理想の『部下・生徒の指導方法』について~

 先週の日曜日、
私が家庭教師をしていたときの生徒と一緒に食事をした。

 その子は現在、とある職場でチームリーダーを担っており、
その職場で後輩の育成にとても苦労しているとのことだった。

 その子の話の中で私が最も印象深かったのは、
『絶対に怒らないようにしている』というその子の考え。
この考えは、実は今から10年前に私がその子に伝えたことで、
それ以来、その子はずっとそれを強く心に留め、
いろいろな人たちに対して怒らずに接してきたとのこと。

1.記憶とストレス

 ヒトの脳内で短気記憶を司る器官のひとつである「海馬」は、
数多くある器官の中でも特にストレスの影響を受けやすい器官のひとつ。

 テレビドラマなどでよく見る、上司が大声で『何度同じことを言えば分かるんだ!』と怒鳴るシーン。
大きな声で怒鳴るとそれが相手にとって強いストレスとなり、記憶力を低下させる要因となる。
そのため、上司は結果的に何度も同じことを言わなければならなくなる。

 だからこそ私は、その子がまだ生徒だった頃から一貫して、
『ヒトの能力を伸ばす際には、絶対に怒らないように』と伝えてきた。

 こういう話をすると、
『おれはあいつを厳しく育てた(強いストレスをかけた)から、あいつは一流になれたんだ!』
という人もしばしば現れるが、
この考え方は、
『強いストレスをかけなければ“超”一流になれた(もっと能力が伸びた)』
という可能性に目を向けていない、根拠が伴っていないない考え方。

誤った認識の歴史と今

 ヒトの歴史を振り返ると、
根拠の伴わない自信に基づく(無謀な)取り組みの連続だった。
 かつて中世ヨーロッパでコレラが蔓延したときも、
『裸で踊りながら患部を踏みつけると治る』と信じた集団が朝まで踊り狂って死んでいき、
『沸騰した油を患部に塗ると治る』と信じて大やけどが原因で死んだ者もいた。
(最終的には、ヨーロッパの全人口の30%が死亡した。)

 これは、現代社会においてみられる
『厳しく指導すれば成長する』という誤った考えにも通じるものがあり(※スポーツのような体力に関係する分野には例外アリ)、
今もなお、
ヒトの脳の本質を知らない人が自己陶酔にも似た“教育”という似非の大義の下で好き勝手に振る舞うことが後を絶たない。

 だからこそ私は、かつての教え子にはそうなってほしくない一心で、
『ヒトの能力を伸ばす際には、絶対に怒らないように』と伝えた。

 それを10年経ってもなお守ってくれていたことに、驚きを隠せなかった。
私の言葉を10年も心に留め、そして実践してくれたことを思うと、
今後も、一度たりとも自身の言葉を偽るどころか、誤ったことをヒトに伝えることは避けなければならないのだと強く実感した。

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