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『氏より育ち』は正しいか。“能力の発現は遺伝子と環境のどちらに影響を受けるか”に関する結論

 ある学者が、
『ヒトやサルが蛇(へび)を怖がるのは、蛇に対する恐怖が遺伝子に刻まれているからだ』
という仮説を立てた。
 そしてそれを検証するために、生まれてから一度も蛇を見ていない子サルに精巧な蛇のおもちゃを見せてみた。すると、子サルは蛇を全く怖がらなかった。

 この結果を受けてその学者は、
『子サルが蛇を怖がるようになるのは、“大人のサルが蛇を怖がっている姿”を見ることによってそう学習するからだ』
と仮説を立てた。
 それを確認するべく、まずは本物の蛇を見た大人のサルが驚く姿を動画に収めた。次に、大人のサルが驚いているその動画を細工して、蛇をワニ、ウサギ、花束に差し替えた動画も作った。(サルが驚く姿は全ての動画で共通して使いまわしている)
 そして、その4種類の動画を、蛇もワニもウサギも花束も知らない子サルに見せた。(つまり、大人のサルが蛇を見て驚く動画、ワニを見て驚く動画、ウサギを見て驚く動画、花束を見て驚く動画をそれぞれ見せた)
 その結果、子サルは何を見て怖がるようになったか。

 正解は、『蛇』と『ワニ』である。すなわち、学者の仮説は半分正解で半分不正解だった。蛇やワニをみて驚いた大人サルを見た子サルは蛇やワニを怖がるようになったが、ウサギや花束を見て驚いた大人サルを見た子サルはウサギや花束を見ても怖がることはなかった。

 何故か。

 それは、蛇やワニを怖がるという行為はもともと遺伝子に刻まれていたが、ウサギや花束を怖がるという行為はもともと遺伝子に刻まれていなかったからである。言い換えれば、どれだけ遺伝子に情報が含まれていても、それが発現するためには一定の環境(外圧)にさらされなければならない。

 ヒトの能力の開花を表すことばに『氏より育ち』(つまり、遺伝子か環境か)という言葉があるが、答えは『氏も育ちも』である。ヒトは、持って生まれた遺伝情報の大半を発現させることなくその生涯を終えていく。そして、遺伝情報の発現は、ときに自身をとりまく環境(外圧)によってしか生じないことがある。ヒトの能力を開花させるのは、ときに本人の『意志』ではなく、本人が予想もしない環境(外圧)である。
 ヒトは一生かかっても自身がもつ遺伝情報の全てを発現させることなどできないのだから、いろいろな環境に身を置き、自身に眠る未だ発言していない遺伝子を目覚めさせるという生き方をしてみるのもいいかもしれない。

 もしも今、毎日が退屈でマンネリ化して、今の自分に飽きて、それゆえ新しい自分や何かに触れてみたいと思うなら、これまでに経験したことがないことや、訪れたことがない場所に訪れてみてるという選択肢もある。自身の中に眠る、意外な遺伝子が目覚めるかもしれない。ヒトの可能性は、多様である。

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