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東京医科大学の裏口入学と早稲田大学政治経済学部の数学必修化にみる『入学試験』の意義について。(ひとつの思考訓練として)

 東京医科大学への『裏口入学』が、世を騒がしている。
そんなニュースを傍目に、私はさまざまな想像をする。

 たとえば、裏口入学で入学した生徒の卒業率。
入試を受けずに(もしくは合格点に達成せずに)入学した学生は、無事に卒業できるのだろうかという想像である。
無事に卒業できるのであれば、大学で学ぶ基礎能力があるかどうかを確認する“入学試験”は、選別という意味では機能していないと考えることもできる。
無事に卒業できないのであれば、裏口入学は本来の機能を果たさず、淘汰されることになる。

 大学が入学試験を課す目的は、『入学後に授業を理解できる学力の有無の確認』にあるのか、それとも『卒業(学位の修得)に値する学力の有無の確認』にあるのか。
これは、前者である。
後者であれば、入学後の期末試験でふるいにかけることが可能であるため、入学以前に課す必要はない。

 入学試験を課す目的が『入学後に授業を理解できる学力の有無の確認』にあるのであれば、裏口入学における問題は、上述した点に戻る。すなわち、卒業できるなら入学試験の意義は失われ、卒業できないのであれば裏口入学は淘汰される(=学位を得ることができないので本来の意味は失われる。)。

結局のところ、裏口入学の問題は

『卒業できる能力を有し、なおかつ入学できる能力を有する学生』を不合格とし、
『卒業できる能力を有し(もしくは有さず)、入学できる能力を有さない学生』を合格させる
という点にある。

入学する能力と卒業する能力に相関関係が無いにしても、むしろそれであればなおのこと、“入学できる教養”と“卒業できる教養”の両方を備えた人材を大学は確保し、社会に送り出すことが責任であるといえる。

 なお、『入学する能力』と『卒業する能力』に厳密な相関関係があるにせよないにせよ、入学試験の意義をより大きなものにしようと舵を切ったのが、早稲田大学の政治経済学部である。早稲田大学は2021年度の一般入試から、政治経済学部の受験者に対して数学を必須科目とした。
 一般的に、私立大学の文系学部のみを受験する学生は『国語』『英語』『社会』の3科目のみを勉強して試験に備える。この場合、経済学部であれば入学後に必要となる統計学や数学の知識が乏しいまま講義を受けることになり、講義の理解や知識の応用が期待できない。この点、政治経済学部の入学試験に数学を課すことで、それらの知識がある学生にとっては講義がより有益なものとなる。入学試験への数学の導入によって今後は“私立大学の文系学部だけを受ける受験者”の選択肢から早稲田大学の政治経済学部は外れることが予想されるが、受験科目に数学が必須となっている国立大学(東京大学や一橋大学)の併願は増えることが予想される。受験者の数の減少を招いてでも受験者の質を高めようとする判断は、より優秀な学生を確保し、世に送り出すという観点からは正しいといえる。

 『入学試験』といえば受験生にとっては入学を目的とした取り組みとして割り切られがちだが、大学にとってはより優秀な学生を入学させ、勉強させ、卒業させるための最初の取り組みという側面もある。それゆえ、今後も各大学は入学試験制度と向き合っていくことが重要である。

 今回の東京医科大学の裏口入学事件は議論の余地がないほどに『悪』だが、入学試験の意義を考える上でひとつのきっかけとなったといえる。

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