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技術が持つ性質《その1》“偶然”による進歩

 現在の社会は、多くの技術によって支えられている。パソコンやスマートフォン、自動車や医薬品、電化製品、建築物などは、繰り返される『技術の進歩』の中で生み出され、人々に多くの利益をもたらしている。
 技術の進歩は自然発生するものではなく、緻密な計算や戦略に基づく研究や考察の積み重ねの上に実現する。なお、そうした研究や考察によらず“偶然”によって新たな技術が発見され、既存の技術が進歩することがある。以下では、偶然によって技術が著しく進歩した事例についてみていく。

“偶然”がもたらした技術の進歩

 今から150万年ほど前、人類は『たき火』をしていたことが確認されている。もっとも、当時は意図して火を生じさせる技術があったわけではなく、山火事や火山の噴火によって発生した火を利用していたと解釈されている。そして今から50万年ほど前、人類は摩擦によって火が生じることを“偶然”にも発見したといわれている。この出来事は、人類が偶然から自らの技術を進歩させる第一歩となったといえる。
 火を発生させる技術の発見から50万年が経過した20世紀、火に関する新たな技術が偶然によって発見されることになる。1946年、アメリカで敵国の航空機の飛来を把握することを目的としてレーダーの研究が行われていた際、レーダーに使用するマイクロウェーブが開発者の持っていたチョコレートに“偶然”照射された。こうしてチョコレートに向かって照射されたマイクロウェーブはチョコレートの内部に含まれる水分子を振動させ、分子間に摩擦熱を生じさせた。この照射により、研究者は水分を豊富に含む食物にマイクロウェーブを照射させるで摩擦熱を生じさせ、食べ物を温めることができることを発見した。偶然の中で発見されたこの技術はその後に改良・応用され、後に『電子レンジ』として製品化されることになった。

 こうした『偶然による技術の進歩』は研究や実験の失敗から偶然に生じることもある。さらに、そうした発見がノーベル賞の受賞につながるほどの技術の進歩を実現することもある。

“偶然”からノーベル賞の受賞へ

 1967年、東京工業大学の資源科学研究所で助手を務めていた白川英樹が研究生と共にポリアセチレンの合成実験を行っていた際、実験に用いる薬品の分量を誤った結果、生成を予定していた黒い粉末ではなく銀色のフィルムが生成された。その銀色のフィルムを分析した結果、“化学反応が生じたポリアセチレン”であることが判明した。これを基に白川は『白川法』と呼ばれるポリアセチレンのフィルム生成法を確立させ、電気を通すプラスチックを作り出すことに成功した。この技術は後に銀行のATMや駅の券売機のタッチパネルに用いられることになり、この発見によって白川は2000年にノーベル化学賞を受賞した。

 また、島津製作所の中央研究所で研究員を務めていた田中耕一も研究中の失敗による偶然によって技術の進歩を実現させている。
 1985年、タンパク質をイオン化させる方法を模索していた田中は、実験中に誤ってコバルトの微粉末にグリセリンを配合させた。その結果、タンパク質は田中がそれまでに探し求めていた状態へと初めて変化した。この偶然に基づく科学技術の進歩により、人体を構成しているタンパク質の詳細な解析が可能となった。なお、田中は当時を振り返り、大学時代の専攻分野が化学ではなく電気工学であったことから『(従来の化学分野の)専門知識に捉われずにやったのが良かったのかもしれない』と述べている。すなわち、化学分野の常識が知識としてなかったことが偶然を生み出し、新しい結果を生み出す要素となったといえる。この発見により、田中は2002年にノーベル化学賞を受賞した。

進歩の必然と偶然

 今日までの技術の進歩は、ときに高度な計算や戦略に基づく“必然”の結果でもあり、そしてときに失敗や知識のなさによる“偶然”の結果でもあった。高度な計算や戦略が技術の進歩のための必須条件ではないことから、技術の進歩の可能性を向上させるためには、いわゆる無計画な試行錯誤の繰り返しや組み合わせも必ずしも無意味なものではないといえる。

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