人類学者の雑記ブログ(脳科学から統治理論まで、理系文系幅広く。)

  1. 科学・技術
  2. 51 view

技術が持つ性質《その2》“応用”による派生(1)

 技術の進歩は偶然によって生じるだけでなく、既存の技術を応用することで生じることもある。すなわち、技術は応用によって派生する性質を持つ。以下では、技術が持つ性質の一つである“応用による派生”についてみていく。

江崎グリコの応用

 技術には、応用によって新たな技術が生み出される性質がある。それを示す例の一つとして、菓子メーカーとして有名な江崎グリコが『gg』というブランドで販売しているエイジングスキンケア化粧品を挙げることができる。

 かつて、江崎グリコの創業者である江崎利一は長男が病を患った際、新聞で読んだ『牡蠣にはエネルギー代謝に大切なグリコーゲンが多く含まれている』との記事を思い出し、グリコーゲンを長男に与えた。その結果、衰弱していた長男の病状は回復に向かった。この経験から、江崎は育ち盛りの子供たちが病気にならない身体になるようにと、グリコーゲンをキャラメルに含めることを考えついた。ここから江崎グリコのグリコーゲンに関する研究が始まった。その後、江崎グリコは研究の中でグリコーゲンと肌との関係に着目することになる。
 グリコーゲンはエネルギーに変換されやすいブドウ糖が結合したものであり、内蔵に貯蔵しておくことによって運動時にエネルギー源として活用できる性質を持つ。江崎グリコは研究の結果、皮膚や毛髪などにもグリコーゲンが蓄積し、加齢によって減少していくことを発見した。こうして江崎グリコでは従来のグリコーゲン技術を応用し、肌の角質内層に潤いを与えるEPAグリコーゲンを独自に開発した。技術の派生によって発見されたEPAグリコーゲンは、現在では化粧品としてローションやクリームなどに用いられている。

味の素の応用

 食品分野で培った技術を化粧品分野に応用させた他の例としては、味の素の事例を挙げることができる。味の素では一世紀に及ぶアミノ酸の研究から得られた技術を応用させることにより、『JINO』というブランドで化粧品を販売している。

 1907年、東京帝国大学理学部化学科(現:東京大学理学部化学科)の教授であった池田菊苗は、アミノ酸の一つであるL-グルタミン酸ナトリウムを成分とする『うま味調味料』を発見し、翌年に『グルタミン酸を主要成分とする調味料製造法』に関する特許を取得した。その後、池田は鈴木製薬所の鈴木三郎助に事業経営を依頼し、この調味料は『味の素』の商品名で販売されることになった。これ以降、鈴木製薬所ではアミノ酸の研究が続けられ、『味の素株式会社』と社名を変更した現在においてもその研究は引き継がれている。
 こうしたアミノ酸の研究は、現在では肌の水分やハリを保つ技術として応用されている。肌が持つ天然うるおい成分の大半はアミノ酸で構成されており、味の素株式会社では自社が持つアミノ酸に関する技術を化粧品分野に活かしている。味の素株式会社はアミノ酸の研究から抗酸化成分である『ビタミンアミノプロテクター』を独自に開発し、現在ではアミノシューティカルクリームとして販売している。

 上記の2つの事例は、ある分野の技術が異なる分野に応用することができるという性質を示している。このような技術の応用が生み出す新たな技術は、場合によっては複数となることもある。

富士フィルムの応用

 一つの技術が様々な技術に枝分かれした例の一つとして挙げることができるが、写真フィルムの研究・開発によって生み出された技術である。
 富士フィルムは、江崎グリコや味の素と同様に自社の研究・開発で培った技術を化粧品分野に応用している。写真フィルムの主原料はコラーゲンで構成されており、人の肌も同様にコラーゲンで構成されている。また、写真の色褪せの原因となる酸化は、人の肌のシミや老化の原因にもなる。そのため、富士フィルムが持つ写真フィルムの技術は、化粧品分野においても応用することが可能となっている。写真フィルムの厚さは髪の太さに近く、写真フィルムの劣化を防ぐためにコラーゲンが用いられていたことも技術の応用を可能とする要因となっている。こうして富士フィルムは現在、自社の写真フィルム技術を応用することで『アスタリフト』というブランドで機能性化粧品を開発、販売している。

 また、富士フィルムでは写真フィルムの技術を応用することで液晶ディスプレイに必要な高機能フィルムの開発や、写真印刷の技術を応用することでインクジェットプリンター向けのインク染料の開発も行っている。さらに、写真撮影とフィルムに関する技術を応用することでX線フィルムを開発し、内視鏡システムや超音波画像診断システムなどの医療機器の分野へと技術を派生させた。
 こうして富士フィルムが生み出した写真フィルム技術は様々な分野で応用され、現在では写真の撮影、描画、記録の分野だけでなくコスメティックやサプリメントなどのヘルスケア分野、デジタルX線画像診断システムや3次元画像解析システムなどの医療分野、携帯電話・スマートフォン用のカメラモジュールなどの光学デバイス分野、印刷用のインクなどの発色色材分野、透明伝導性フィルムや遮熱フィルムなどの高機能性材料分野などに派生している。
技術の派生
(出典:富士フィルム【http://www.fujifilm.co.jp/rd/technology/】)

 なお、富士フィルムは2008年に新型インフルエンザウイルスの拡散に対応する社会的要請に応えるべく、富士化学工業が開発していたインフルエンザ治療薬『T-705』の早期開発と安定供給を目指して富士化学工業を自社のグループへと迎え入れることで治療分野にも進出した。このインフルエンザ治療薬『T-705(商品名:アビガン)』は、2014年に西アフリカを中心に拡散した『エボラ出血熱』に対して一定の効果を示した。

応用の可能性

 上記のように、技術には応用によって派生する性質がある。すなわち、一つの技術の開発とその応用によって、幾何学級数的に技術が増加・進歩する可能性を有する。

科学・技術の最近記事

  1. 【追記】《医学・生理学賞に本庶佑(ほんじょ・たすく)氏》/2018年、ノーベル賞の受賞に最…

  2. 同じ濃さの砂糖水でも、色が違えば『甘さ』が異なるという研究結果

  3. ハチミツを加熱加工すると、免疫賦活作用が出現-加熱加工ハチミツの摂取で細菌感染が予防できる…

  4. 風邪(発熱)のときに怖い夢をみる理由

  5. 空腹感が痛みを和らげるという仮説。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP