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技術が持つ性質《その3》“競争と協調”による進歩(1)

 技術は、特定の条件や環境下において効率的に進歩する。効率的な技術の進歩が実現する条件や環境として、『効率的な“競争”や“協調”が行なわれている』という点を挙げることができる。“競争”とは『他者との争い』を意味し、“協調”とは『他者との協力』を意味している。
 以下では、効率的な競争と協調がどのようなものであるか、そして、非効率な競争と協調がどのようなものであるのかについてみてく。

技術の定義、および進歩の条件

 一般的に、『技術』といえば機械工学や電子工学、または医学分野における科学技術が想像されるが、技術という言葉は広い意味ではそれ以外にも様々な分野を含む。例えば、絵画や彫刻などの制作技術や楽器などの演奏技術、または職場での事務処理能力なども技術に含まれる。すなわち技術とは、広い意味においては“向上させる(する)余地のある能力・技能”といえる。つまり、機械工学や電子工学、または医学分野における技術だけでなく、絵画の描画技術や芸術作品の彫刻技術、楽曲の演奏技術、さらには職場での事務処理能力などにおいても向上の余地があることから、これらは全て広い意味においては技術となる。これらの技術は全て、競争と協調の使い分けによって効率的に向上させていくことが可能となる。

 人や組織が持つ技術は、“競争”と“協調”によって効率的に高めていくことが可能である。なお、効率的に技術を高めるためには“競争”と“協調”を状況に応じて使い分ける必要がある。これは言い換えれば、“競争”もしくは“協調”は、場合によっては技術の向上を非効率なものにさせる場合があることを意味している。それゆえ、効率的な技術の向上を実現させるためには、“競争”および“協調”が、それぞれ最適な場面において選択されなければならない。

効率的・非効率な競争と協調の4つの型

 技術を高めるための効率的・非効率な“競争”と“協調”は、それぞれ組み合わせによって以下の4つの型に分類することができる。すなわち、
『効率的な“競争”』
『非効率な“競争”』
『効率的な“協調”』
『非効率な“協調”』
である。

 『効率的な“競争”』の特徴は、他人の技術の向上を妨げない点にある。たとえば、知識の習得や運動能力の向上の競争などが挙げられる。少しでも多くの知識を得る、少しでも早く走れるようになるといった他人との“競争”は、それによって生じる自身の技術(知識・運動能力)の向上が、他者の技術の向上を妨げるものではない。すなわち、自身が自己研鑽によってどれだけ多くの知識を得たところで、他者の知識を奪うことにならず、また、どれだけ運動能力を高めようとも、または歌や楽器の演奏、さらには絵の描画の技術を高めようとも、他者の技術の向上を妨げない。
よって、この自己研鑽型の“競争”は技術を高める上で効率的であるということがわかる。

 それでは、『非効率な“競争”』とはどのようなものか。競争が非効率を生じさせるのは、競う対象となる資源や目的物が有限である場合である。いわば加害・奪取型の“競争”であり、例としては『成果主義制度の導入による弊害』が挙げられる。
 あるファーストフード店を運営する企業では、成果主義の人事体系を目指して年功序列を廃止し、実力主義への意識を高めるように制度の変更を行った。しかし、若手社員を教える立場にある年配社員が自身の成果を優先し、若手社員の育成を進めず、その結果、企業は制度の見直しを迫られることになった。
 また、ある電機メーカーでは成果主義に移行したために、従業員が率先して行う作業は評価の対象となる業務に集中し、結果的に組織運営が停滞し、制度の見直しを迫られた。
 成果主義が非効率な競争となる原因は、他者の業績の向上(=技術の向上)が、相対的に自身の評価の低下、もしくは不利益につながる点にある。それゆえ、限られた資源(地位や報酬)を巡って他者の技術の向上を妨げることや、偏った技術の向上のみに労力が向けられるようになる。その結果、技術の向上は非効率なものとなる。この点、かつての日本企業では年功序列制度を採用し、定期昇給によって毎年賃金の上昇が約束されていたため、加害・奪取型の非効率な競争よりも、自己研鑽型の効率的な競争が主流となる下地があったといえる。

 次に、『効率的な“協調”』について考える。効率的な“協調”とは、資源共有型である。なお、ここでの資源とは、有形の物質的な資源に限らず、無形である知識や方法・技法も含まれる。無形の資源の例としては、トヨタ自動車が生み出した『カンバン方式』などが挙げられる。『カンバン方式』とは、必要な資材を必要なときに必要なだけ生産する方式であり、トヨタ自動車はこの方式によって経済効率を高めた。この『カンバン方式』の導入によって生じる付加価値は、他の企業が『カンバン方式』を導入、模倣したとしても、それによって『カンバン方式』から得られる技術(=付加価値)の向上を妨げることはない。また、他社が『カンバン方式』を基に、さらなる効率的な経営手法を生み出した場合にはその方法を利用することも可能となる。
 以上のことから、このような資源共有型の効率的な協調は、効率的に技術を向上させる要因となることがわかる。

 最後に、『非効率な“協調”』について考える。非効率な“協調”とは、横並び型の“協調”である。例として挙げることができるのは、『誤ったゆとり教育』である。誤ったゆとり教育では、生徒が他の生徒と差がつくことを避け、学業や運動において順位を付けず、横一線となるよう取り計らわれる。こうして生徒の自己研鑽が疎かにされる結果、全体の能力の向上が阻害され、技術の向上は非効率なものとなる。
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 以上が、効率的・非効率な“競争”と“協調”における4つの型である。

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