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  1. 生命・進化
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不倫と浮気の 脳科学【人類学者・臨床心理カウンセラーが原因や特徴を日本一わかりやすく解説】

 2017年もまた、一年を通じて例年どおり多くの不倫や浮気が世を騒がせた。

 『俳優-グラビアアイドル』『女優-会社員』『代議士-弁護士』『アーティスト-俳優』『お笑いタレントーモデル』『女優-医師』など、ひとつのスキャンダルが去れば次のスキャンダルが舞い込む。

 不倫や浮気に対する世論は、時代が進むにつれて厳しいものになっているといえる。テレビや雑誌での不倫・浮気に対する論調が厳しくなっている昨今においてもなお、ヒトに恋愛感情が存在し続ける限り、不倫や浮気の可能性は存在し続ける。

 不倫や浮気がメディアに取り上げられる度に、非難(もしくは少数だが擁護)の声があがる。
 従来、不倫や浮気に関する批評や論評は、“不倫・浮気をされた被害者”、もしくは“不倫・浮気をした加害者”のいずれかの立場に立つものが多かった。すなわち、「不倫・浮気は絶対にダメ!」といった倫理・道徳面(または法律面)に重きを置いた主張か、もしくは「ヒトはそういう生き物だから」と生物的な必然性に免責を求めた主張のいずれかが大半であった。

 ここでは、上記のいずれか一方の立場をとるのではなく、人類学者・臨床心理カウンセラーの立場から、脳科学の分野を軸に生物学、社会学の観点も踏まえてヒトの不倫・浮気の原因や特徴、その本質について解説していく。

【目次】
1.ヒトは何故、恋をするのか
 ・『恋』という精神活動が存在する理由と、『恋』の目的
 ・異性の好みはどのようにして決まるか
2.恋の効果
 ・恋のメリット
 ・恋は、何から目を背けさせるか
3.『性の本質』と『不倫・浮気』
 ・性の本質
 ・ヒトの性の特殊性
 ・性における男女の特徴 ―ヒトはヒトに何を求めるか―
4.心を奪われるとき
 ・不倫・浮気をする要因
 ・恋に落ちる瞬間
5.不倫・浮気の快楽
 ・不倫・浮気の動機の分類
 ・特殊な状況が生み出す心理状態
 ・快楽に抗(あらが)う難しさ
6.「人と付き合う」ということは、「ヒトと向き合う」ということ
 ・ヒトはどうやって、誰と生きていくべきか

1.ヒトは何故、恋をするのか


 不倫や浮気の前段階にあるのは、『恋心』である。配偶者、もしくは交際相手がいない異性との恋愛関係は“健全な付き合い”とされ、これに対して配偶者や交際相手がいる異性との恋愛関係は“不健全な付き合い(=不倫・浮気)”とされる。いずれも『恋心』に基づくものであるが、双方の社会的評価は対極にある。

『恋』という精神活動が存在する理由と、『恋』の目的

 『恋』というと、一般的にはロマンチックで甘美な、つまりは特別なものであると考えられることも多い。恋がそう考えられるのは、ヒトにとってまさしく特別な、生きていく上で最重要とされる精神活動だからである。

 ヒトに限らず、あらゆる生命の最終的な目的は、『繁栄』にある。そのために生物は“生存”し、“生殖”をおこなう。この“生存”と“生殖”こそが、地球上に存在するすべての生命の活動原理である。

 地球上の生命は、今から38億年前に誕生した。誕生した当初の生命は、大きさがわずか0.01mm程度だった。その後、より効率的な繁栄を実現するべく常に進化を遂げてきた。
 あらゆる生命のあらゆる身体的特徴は、繁栄という目的のもと、生存と生殖を実現するために進化し、形成されてきた。ヒトも例外ではない。ヒトがヒトに恋をするのも、繁栄という目的を達成するために必要な活動だからである。

 今から38億年前に地球上に生命が誕生したとき、繁殖の方法は『無性生殖』であった。すなわち、オスとメスの結合を必要としない、一個体による単独の『分裂』である。

 これは、バクテリアのような単細胞生物にみられる生殖方法である。単独での分裂による繁殖の場合、分裂した生命は親と同じ遺伝子を受け継ぐため、遺伝子の変化は生じない。これに対して、オスとメスの結合を必要とする『有性生殖』では、オスの親とメスの親の遺伝子を半分ずつ受け継ぎ、新たな(=親とは違った)個体として誕生することになる。両親から受け継がれた遺伝子はランダムで組み合わされるため、子どもが新たに持つことになる遺伝子は親の遺伝子と比べて『良い』場合もあれば『悪い』場合もある。ここでいう『良い』とは、生命が最優先する生存と生殖にとってプラスに作用するものを指す。『良い』遺伝子を持つ子どもは『悪い』遺伝子を持つ子どもよりも長く生存し、多く生殖することになるため、時代が流れる(=世代を重ねる)につれて、結果的に『良い』遺伝子ばかりが残り、『悪い』遺伝子は淘汰されて(=消滅して)いく。こうして、『良い』遺伝子だけが後世に受け継がれていく。これが、いわゆる“進化”と呼ばれる現象である。
 この“進化”を実現させるために、生命の遺伝子にはオスとメスが互いに魅力を感じ、惹かれる仕組みが組み込まれている。

 ヒトの場合、恋をすると脳内にある“腹側被蓋野(ふくそくひがいや)”という領域が活発化して快楽を得る仕組みが備わっている。この快楽ゆえに、ヒトは恋をして恋人と結ばれ、子孫を残していくことになる。すなわちヒトは、繁殖のために恋をするのである。

異性の好みはどのようにして決まるか


 ヒトがヒトに恋をするのが自然(=本能)とはいえ、どのような相手にでも無条件に恋をするというわけではない。ヒトの好みは十人十色・千差万別であり、ヒトによって異なる。

 異性の好みを決定付ける要因には、さまざまなものがある。一般的には、容姿であったり性格であったり、または趣味や共通の話題、もしくは社会的地位や財力なども要因といわれることがある。これらも異性の好みを決める要因のひとつとなりうるが、生物学的な観点(=生命の原理・原則)からみると、副次的な要因にとどまる。

 生物学的な観点から考えると、ヒト(生命)の目的は繁殖のための“生存”と“生殖”であることから、このいずれか、もしくは両方に有利に働く要素を持つ相手こそが、無意識の内に好意を抱(いだ)く相手となる。

 繁殖という生命の目的を実現するために重要なのは、より長期にわたる生存と生殖を可能とする“健全な身体”である。すなわち、ウイルスや細菌に浸食されない身体をつくる『免疫システム』である。
 ヒトは、自身にとって(=すなわち子どもを産むために)必要な異性を判断する際に、相手が持つ免疫システムをひとつの基準としている。相手が持つ免疫システムが自身にとって有益な場合、その遺伝子を子どもに受け継がせることで、より免疫力のある(つまりは生存と生殖に適した)子孫を残すことができる。
 それでは、ヒトは相手がどのような免疫システムを持つかについて、どのように判断しているのか。

 ある研究機関で、男性の汗が浸透したTシャツを女性に嗅がせて、その女性に男性の性的魅力の高い順に順位を付けてもらう実験をおこなった。その結果、自分(=女性)が持つ免疫システムとは異なる免疫システムを持つ男性であればあるほど、性的な魅力を感じていることが分かった。
 ヒトが無意識の内に魅力を感じる免疫システムに関連する遺伝子グループのひとつに、『HLA』と呼ばれる“ヒト白血球型抗原”がある。HLAはヒトの免疫システムの中心的役割を果たしており、組み合わせは数百万パターンにのぼる。ヒトは多様なHLAを有していればいるほどさまざまな外敵(=脅威)から身体を守ることができるため、自分とは異なるパターンのHLAを体内に取り込もうと(=次世代に残そうと)して、異なるパターンを持った異性に魅力を感じ、好意を抱く。
 HLAのパターンが大きく異なる夫婦・カップルの場合、パターンが似ている場合と比べて妊娠する確率が高く、流産する可能性が低くなることが報告されている。なお、パターンが似ている場合は生まれてくる子どもが低体重になる可能性が高い。すなわち、オスとメスのHLAのパターンが異なっていればいるほど、生物学的にみて相性が良く、そのオスとメスは“好ましい組み合わせ”となる。

 生命にとって『繁殖』という目的を達成することが活動の原則であることから、次世代(=自身の子)の免疫システムを決定するHLA遺伝子の種類は、ヒトの好みを決定する要因となる。研究によると、HLAのパターンが似ている夫婦やカップルほど不倫や浮気が多く、離婚が多くなる。異性と接する上で『一緒にいるとなんとなく落ち着く相手』や『なぜだか分からないけど好きになった相手』がいるのは、HLA遺伝子のパターンが異なることによって生じている場合が多い。

 相手が持つ免疫システムの遺伝子は、異性に対する好意の決定要因となる。とはいえ、一般的な体感としては、ヒトがヒトに恋をする理由には『美人だから』『性格が良いから』『趣味が合うから』『お金を持っているから』といった理由もあげられる。

 生物学的な観点から恋(=好み)を考える場合、HLA遺伝子の相性こそが最も大きな要因となるものの、それでも上記の要素(=容姿・性格・趣味・財力)が好みを決定付ける要因となりうるのは、どのような理由からか。この点に関しては後述する。

2.恋の効果


 ヒトは、繁殖という目的を達成するために自らの脳に『恋』というシステムを内在させている。そして、恋にはさまざまなメリットが備えられている。

恋のメリット

 恋をしている相手と手をつないだり抱き合ったりすると、ヒトの脳内では『オキシトシン』という神経伝達物質が分泌される。オキシトシンは脳内にある腹側被蓋野(ふくそくひがいや)、いわゆる“報酬系(=A10神経系)”と呼ばれる神経を活性化させ、ドーパミンを放出させる。これにより、ヒトは幸福感や満足感を覚える。オキシトシンやドーパミンは、恋人と触れたときだけでなく顔を見たときにも分泌される。
 恋をすることで分泌されるオキシトシンには、疲労による不快感や不安を抑え、ストレスを弱める効果もある。また、体内のホメオスタシス(=恒常性)、すなわち身体を健康な状態へ戻そうとする機能も作用させる。

 ヒトは、互いに恋心を抱くことで恋人同士となり、やがて性行為におよぶ。性行為ではオーガズム(いわゆる“快楽の絶頂”)をむかえることで大きな快楽を得る。オーガズムは短時間で収束するが、余韻としてオキシトシンが長時間にわたって脳内で分泌される。性行為の際には、通常の5倍ほどのオキシトシンが分泌される。また、性行為によって脳内で記憶を司る部位である『海馬』が作用し、快楽を与えてくれる相手を記憶する。この記憶が相手に対する執着心の基礎となり、さらには脳内のオキシトシンによって、性的な絆が形成される。ここで形成された絆によって、ふたりは互いに献身的に尽くし合い、子どもが生まれるとその世話をするようになる。

 性行為の目的は、オキシトシンやドーパミンの分泌だけでなく、心の一体感を実現するという点にもある。ヒトは、他者と同調する(もしくは自分を重ねる)ことで安心感や高揚感を得る動物である。自身の夢を子どもに託すことや、スポーツ選手を応援することも同調の一例である。性行為においては、身体的にひとつになることだけでなく、心理的に自己と他者の境界線を除くことで、自己の理解を求めるという目的や効果がある。

 脳内の報酬系(=A10神経系)という神経内で分泌されたドーパミンは、脳内で『楽しい』『心地いい』という感情だけでなく、身体の中のエネルギーが急激に増進していくかのような感覚を伴う気分の高揚ももたらす。また、快楽という感情だけでなく、ふたりがひとつになる感覚や、陶酔・恍惚感も生み出す。

 こうした現象は異性であれば誰を見ても生じるというものではなく、恋をしている相手を見たときにのみ生じる。

 恋にはさまざまなメリットがあるが、ヒトという生物にとって必ずしも良い点ばかりではない。恋という状態は、一定のデメリットをもたらす。

恋は、何から目を背けさせるか

 『恋は盲目』という言葉があるように、恋に夢中になると、一定の判断力を欠くようになる。恋をしている相手を見たとき、ヒトの脳の一部である扁桃体(※恐怖や不安を感じる部位)の活動が弱まることが実験によって確認されている。『恐怖や不安を感じにくくなる』という点では、それが一定の利点とも考えられるが、言い換えれば“警戒心が緩む”ことを意味するため、ヒトの活動原理である“生存”に悪影響を与える要因にもなりうる。
 また、恋をすることで、大脳皮質の一部である“対人関係において相手の評価を司るネットワーク”の活動が低下することも確認されている。すなわち、恋をすることによって、『相手が嘘をつかない人物か』『信頼に値する人物か』『長期間にわたって付き合うに値する人物か』といった評価や判断が困難となる。結婚詐欺の被害に遭うのは、恋によって冷静な判断力を欠くためである。

3.『性の本質』と『不倫・浮気』

性の本質

 生命の原則に沿って考えれば、生命の成功は“少しでも多くの子孫を生み出すこと(=繁栄)”にある。生命は誕生以来、自身を取り巻く環境に合わせて最も効率的に子孫を繁栄させることができるよう進化し、互いの役割を明確にしてきた。

 ヒトの社会に目を向けると、先進国の多くでは一夫一妻制が主流となっている。しかし、一夫一妻制をとる動物は生物全体でみると少ない。哺乳動物の95%以上は、『夫婦』という形態をとらず、オス・メスともに特定のパートナーを見つけずに多くの異性と性行為をおこなう“乱婚”という状態をとる。

 また、オスが子育てをする(もしくは手伝う)ケースも少ない。生命の原則が種族の繁栄にあるため、メスへの受精が終わったオスは次のメスを探して受精することが最も効率的となる。
 しかし少数とはいえ、オスが子育てをする種族もいる。すなわち、ある種族にとってはオスが子育てをしないことが繁栄のための最適な活動であり、他の種族にとってはオスが子育てをすることが繁栄のための最適な活動となることもある。

 繁栄を実現するためにとるべき行動は、必ずしもオスとメスとで同じものになるというわけではない。一般的に、オスは少しでも多くのメスに受精するために行動し、メスは少しでも優秀なオスから受精するために行動する。すなわち、オスはメスの“量”を求め、メスはオスの“質”を求める。これこそが、オスとメスそれぞれの性の本質(=行動原理)である。

ヒトの性の特殊性


 ヒトの社会において、『不倫』や『浮気』に明確な定義はないが、一般的には、“特定の配偶者(もしくは交際相手)がいる場合に、他の異性と身体的な関係を持つこと”を指すと考えられている。
 人間社会(※ここでは、日本などの先進国とする。)においては、夫婦やカップルでいる間はひとりのオス(男性)はひとりのメス(女性)とのみ性行為をおこなうという認識が一般的である。しかし、生物学的な観点からみると、ヒトのオスの身体的特徴は、多数のメス(女性)と性行為をおこなうことを目的として進化していることが分かる。

 上述したように、あらゆる生命のあらゆる身体的特徴は繁栄という目的を達成するべく、生存と生殖を実現することを目的として進化し、形成されてきた。生命の繁栄にとって必要な身体的特徴は存続し、不要な身体的特徴は時間をかけて退化・消滅してきた。これは言い換えれば、現存する身体的特徴は、その生命が効率的に繁栄(生存・生殖)するために大きな役割を果たす(または果たしてきた)ものであることを意味している。

 この観点からヒトの身体的特徴をみると、ヒトが繁栄(生存・生殖)を効率的に実現させるためにどのような戦略をとってきたか(=どのような生活を送ってきたか)が分かる。

 ヒトのオスが“生殖”という点でメスとどのように接してきたかは、男性器の特徴に現れている。ヒトを含む霊長類の精巣の大きさは、それぞれの種族がどのような配偶システムを持っているかに関係している。1匹のオスが1匹のメスと夫婦になる一夫一妻制の種族では、オスもメスも複数の相手と性行為をおこなう乱婚型の種族と比べて、オスの精巣が身体の大きさに比べて小さい。これに対して、オスもメスも複数の相手と性行為をおこなう種族では、精巣が身体の大きさに比べて大きい。
 これは、一夫一妻制をとる種族の場合、メスの体内には1匹のオスの精子しか送り込まれないのに対して、乱婚型の種族では他のオスの精子が送り込まれるために、自身の精子が競争に勝てるよう、精子の数を増やすべく睾丸(精巣)を大きく進化させたことが理由となっている。

 ゴリラの社会は一夫多妻のハーレム社会だが、オス同士でメスをめぐる激しい闘争があり、戦いに勝ったゴリラがメスを独占する。戦いに負けたゴリラはメスを横取りしようとしないので、1匹のメスは1匹のオスしか受け入れない。これに対してチンパンジーの社会では、メスは複数のオスと性行為をおこなう。
 ゴリラとチンパンジーの体重と睾丸(精巣)の重量を比較すると、オスの平均体重は『ゴリラ:168kg > チンパンジー:45kg』であるが、睾丸(精巣)の平均重量は『チンパンジー:120~140g > ゴリラ:25~30g』である。この違いは、ゴリラのメスは特定のオスからしか精子を受け取らないが、チンパンジーのメスは発情期であれば常に多くのオスの精子を受け取るために、チンパンジーのオスは自身の子孫を残すために多くの精子をメスに送り込む必要があることから生じている。(※チンパンジーは、ゴリラの約100倍も繁殖行為(=性行為)をおこなう)

 ゴリラとチンパンジーの生殖に関する機能の違いは、睾丸(精巣)の大きさ以外にも現れている。ゴリラの男性器は膨張時に3cm程度になるが、チンパンジーは8cm程度にまで膨張する。これは、チンバンジーが他のオスよりも確実に自身の精子をメスの卵子に届けるために進化した結果である。また、ゴリラが1回の射精で5千万ほどの精子を送り出すのに対して、チンパンジーは6億ほどを送り出す。この違いもまた、チンバンジーが他のオスの精子にメスの卵子にまで到達されないようにする工夫のために進化した結果である。なお、霊長類に限らず、乱婚型の種族ではどの動物であっても精巣は大きい。

 ゴリラとチンパンジーの比較が示すように、生命(動物)の身体的特徴は、どの種族がどのような生殖戦略をおこなって(=強いられて)きたかによって定まる。これは、ヒトにおいても同様である。

 生物学および進化論の観点から考えると、性行為は必要不可欠な行為であると同時に、外敵に襲われる可能性のある無防備な状態であるために、可能な限り短時間で済ますべき行為でもある(※性行為中には、生存に必要となる外敵との闘争や外敵からの逃走のいずれの行動もとれず、外敵に捕獲されやすいため)。
 チンパンジーの場合、こうした理由から性行為は7~8秒ほどで終わる。スラストと呼ばれるいわゆるピストン運動は、3~4回ほどである。これに対してヒトの場合、性行為は2~10分、ピストン運動は100~500回ほどである。なぜヒトの場合は、性行為にこれほどの時間がかかるのか。時間がかかる理由には、男性器の形にも関係している。ヒトの男性器は、先端に“返し”がついているキノコ型をしている。ヒトの男性器がキノコ型をしていて、なおかつ射精までに多くのピストン運動が必要となる理由は、いずれも『自身が射精する前に、メスの膣内に入り込んでいる他のオスの精子を掻(か)き出す必要があったため』である。2003年に発表された研究論文では、実験によって、男性器がキノコ型ではない場合は35.5%の精子しか掻き出せなかったが、キノコ型の場合は91%の精子を掻き出すことができたと報告されている。
 (なお、男性器は通常、左右のどちらかにわずかながら曲がっている。これについては『手淫(いわゆるマスターベーション)を繰り返すことで曲がっていく』と一般的には考えられがちだが、実際には、左右に曲がっているほうが他のオスの精子を掻き出しやすいことが理由となっている。)

 ヒトという種族に関して、1匹のメスが短期間で多くのオスと性行為をおこなうという生物学的特徴は、オスの精子の構成にも現れている。オスが性行為の際に射精する精子には、他のオスの精子の侵入を防ぐ『ブロッカー精子』と、他のオスの精子を見つけて撃退する『キラー精子』、そして膣から子宮を通って卵子に向かう『エッグゲッター』の3種類がある。卵子に向かう『エッグゲッター』は『ブロッカー精子』と比べてはるかに少なく、一度の射精で数百万ほどしか送られない。(一度の射精で送られる精子全体は、2億5千万ほど。)

 なぜこのような精子の種類が進化の過程で獲得されたのか。それは、あるオスの精子がメスに送られた後も、他のオスがそのメスの膣内で射精することが日常的にあったためである。すなわち、もしもメスが特定のオスのみと性行為をするのであれば、オスは他のオスの精子の侵入を防ぐために何億というブロッカー精子やキラー精子を進化の過程で作り出す必要はなかった。膣内に入った精子の寿命は5日程度であるため、進化論の観点から考えるとメスはこの5日間に複数のオスと性行為をおこなってきたことが分かる。
 (※上述したように、生命の進化の過程においては必要のない機能は形成されない(もしくは消滅する)ため、ヒトのオスが他のオスの精子を防ぐ機能を獲得するためには、その前提として他のオスの精子がメスの膣内に侵入するという経験が日常的に生じていなければならない。)

 以上のことから、ヒトという種族は本来、複数の異性と性交し、子孫を残してきた種族であることが分かる。それでは、ヒトという種族はいつまで乱婚(多婚)の文化を継続させ、いつから単婚の文化を取り入れたのか。
 日本に限定して歴史を振り返ると、3世紀ごろ(弥生時代)は身分の高い男性であれば4~5人の妻を、庶民であっても2~3人の妻を持っていた。当時の日本では夫婦が同居せず、夫が妻のところに通う『妻問婚(つまどいこん)』が主流であったため、複数の女性と関係を持つことは容易であった。
 日本において不倫が非難されるようになったのは、平安時代後期以降に武家社会が形成されて家の血筋を重んじるようになってからである。武家社会では、一夫一妻制や嫁入婚が婚姻の基本形態となった。

 平安時代が終わり鎌倉時代になると、武士の行動規範である『御成敗式目(ごせいばいしきもく)』にて不倫が処罰の対象となった。御成敗式目の第34条には『他人の妻を密懐(みっかい)する罪科の事』という条項があり、不倫をした者は領有している土地の半分を没収されるか、土地がない場合は島流しにされた。(※江戸時代になると不倫は『密通(みっつう)』と呼ばれるようになり、死罪が適用された。)

 日本をはじめとする先進国では、ヒトは生物学的・身体的には乱婚(多婚)の性質を残しながらも、文化的には単婚の制度をとるようになった。これは言い換えれば、ヒトの身体的特徴の進化(変化)が、社会規範(法律や宗教、倫理・道徳)の変化に追い付いていないことを意味している。すなわち、『身体は不倫をする形になっているが、心(すなわち文化や規律)は不倫をしない形になっている』という状態である。
 この齟齬こそが、現代社会において『不倫は悪』とされながらも不倫を防ぐことが難しい要因となっている。

 なお、不倫や浮気のデータを知る上で、日本家族計画協会家族計画研究センターがジェックス株式会社から依頼を受けて実施した『JEXジャパン・セックス・サーベイ』が参考となる。この調査では、20歳~69歳の男女7,000人を対象に、『1年以内に、不倫や浮気をしたか(性的な関係をもったか)』のアンケートをおこなった。その結果、未婚者の場合は不倫・浮気経験者が、男性で76.3%、女性で38.3%だった。また、既婚者の場合は男性で57.3%、女性で23.9%だった。

 不倫が社会的に悪とされる今日においてもなお、生物学的にはオスの身体は不特定多数のメスの身体を求める構造になっていることもあり、ヒトは心身ともに多くの異性を求めている。

性における男女の特徴 ―ヒトはヒトに何を求めるか―


 複数の異性を求め、そして関係を持つのがヒトの本質的行動であるが、オス(男性)とメス(女性)とでは異性に求めるものがそれぞれ異なる。

・男性は女性に何を求めるか

 男性は、無意識に若い女性を求める傾向にある。これは、生物学的にみて若い女性のほうが妊娠する確率が高いためである。生物学的に最も妊娠しやすいのは、10代後半~20代後半である。妊娠の確率は、35歳以降に減少していく傾向にある。年代別の月経周期1回あたりの妊娠確率をみると、20歳~30歳を1とした場合、35歳になると0.45まで減少する。(※ただし、これは1991年のデータであり、平均寿命や生活スタイルが変化した現在では35歳でも妊娠する確率が高くなっている可能性がある。)

 また、男性は女性の身体的な魅力に弱い傾向がある。
 統計的に、ウエストが細くバストが大きな女性ほど女性ホルモンの量が多く、妊娠しやすいことが確認されている。研究データによると、ウエストが細くバストが大きな女性の場合、最も妊娠しやすい月経の期間では卵胞ホルモンの一種であるエストラジオールの量は、そうでない女性よりも30%多いことが分かっている。エストラジオールが30%多いと、妊娠する可能性は3倍高くなる。
 かつて、アメリカ、イギリス、インド、中国の紀元前から現代までの文学作品に登場する美しい女性の描写を調べた研究によると、時代や地域を問わず、魅力的な女性は常に細いウエストと大きなバストを持つ体型で描かれていた。このことから、ヒトは本能的に細いウエストと大きなバストを好むことが分かる。

 生命の目的が“繁殖”にあることから、ヒトは無意識の内に、妊娠する確率が高い若くてスタイルの良い女性に惹かれる傾向にある。

・女性は男性に何を求めるか

 男性が女性の若さやスタイルに惹かれる傾向にあるのとは対称的に、女性は経済力のある年上の男性に惹かれる傾向にある。
 世界各地の37の文化圏の男女を対象にしておこなった調査で、結婚相手の経済的な将来性の重要度をみると、男性よりも女性のほうが結婚相手の経済的将来性を重視していることが分かった。日本の例をみると、男性が0.9ポイントに対して女性が2.3ポイントと、2.5倍ほどの違いがあった。
 この結果は、古来より経済的な豊かさのある配偶者を確保した女性ほど多くの子孫を健全に残すことができ、その遺伝子が受け継がれていることによるものであるといえる。

 また、女性が年上の男性を好むという傾向は、調査をおこなった37のすべての地域でみられた。これは、狩猟採集社会(=狩りをしたり、木の実や山菜を採ったりする社会)であれ現代社会であれ、一般的には年齢を重ねるにつれて社会的地域が高まり、経済力が備わる傾向にあることが原因となっている。女性にとっては、配偶者選びの際には何よりも子どもの生存に不可欠な資源を手に入れることが極めて重要であることが、その根底にある。

・男性は女性をどうみるか、女性は男性をどうみるか

 理論上、男性は一年間に数十~数百の子どもをつくることができるが、女性は一年間にひとり(※双子などの場合を除く)の子どもしかつくることができない。そのため、ヒトに限らず生命は総じて、オスはメスの“量”を求め、メスはオスの“質”を求めることになる。

 アメリカの研究で、短期的な関係を持ちたい(=不倫・浮気をしたい)人数に関する調査がおこなわれた。その結果、男性は平均して3年間で9人、女性は2人と関係を持ちたいと考えていることが分かった。期間を一生涯に広げると、男性は18人、女性は5人だった。

 また、『知り合ってどれくらいで性行為をしたいか。』という質問では、平均して男性は1週間、女性は6ヶ月という回答だった。

 さらに、男性が女性の身体にどれほど興味があるかの実験もおこなわれた。大学でキャンパスを歩く学生(被験者)に、助手(実験者)が以下の3パターンで話しかけた。

a.『キャンパスでよく見かけるけど、あなたは大変魅力的ですね。今晩、デートでもどうですか?』
b.『キャンパスでよく見かけるけど、あなたは大変魅力的ですね。今晩、私に家に来ませんか?』
c.『キャンパスでよく見かけるけど、あなたは大変魅力的ですね。今晩、セックスしませんか?』

 その結果、『はい』と答えた男性の割合は、a(デート)が50%、b(家)が69%、c(セックス)が75%だった。これに対して『はい』と答えた女性の割合は、a(デート)が56%、b(家)が6%、c(セックス)が0%だった。

 男性の場合、性行為に結び付きやすい質問ほど、承諾しやすい傾向にある(セックス(75%)>家(69%)>デート(50%))。これに対して女性の場合、性行為に結び付きやすい質問ほど断りやすい傾向にある(デート(56%)>家(6%)>セックス(0%))。

 これらの調査結果から分かるのは、男性は常に、女性の身体を求めているという点である。そしてそれゆえ、特定の女性に限らず、可能な限り多くの女性の身体を求めようとする傾向がある。それに対して女性は、男性ほどには身体を求めていない傾向にあることが分かる。

 男女の違いは、交際相手のどのような不倫や浮気に嫌悪感を抱くのかという面にも現れている。
 不倫や浮気は、『身体的不倫・浮気』と『精神的不倫・浮気』のふたつに大別できる。『身体的不倫・浮気』は主に異性の身体を求めた不倫・浮気であり、風俗の利用なども含まれる。これに対して『精神的不倫・浮気』は交際相手以外に強い恋心を抱く不倫・浮気であり、身体を求めない場合も含まれる。
 男性と女性の両方を対象におこなった“『身体的不倫・浮気』と『精神的不倫・浮気』のどちらが嫌か”というアンケートでは、男性の場合は『女性の身体的不倫・浮気が嫌』と答えたのが61%、『精神的不倫・浮気が嫌』と答えたのが39%だった。これに対して女性の場合は、『男性の身体的不倫・浮気が嫌』が13%、『精神的・不倫・浮気が嫌』が87%だった。

 この背景には、女性の身体的不倫・浮気には子どもを身ごもる可能性があり、男性の精神的不倫・浮気には恋愛感情が他の女性に移ることで自分の子どもが育てられなくなる可能性があるという要因がある。

 男性は多くの場合、女性に身体(=可能な限り若く、そしてスタイルの良い女性)を求める。これに対して女性は、男性に経済力を求めるというのが一般的である。結婚や交際は、こうした男女の需要と供給の一致(ときには妥協)によって成り立つ。

 ヒトは交際・結婚を経てもなお、不倫や浮気をする生き物である。上述したように、未婚・既婚、男女を問わず、不倫・浮気の経験者は約25%~75%にのぼる。なお、ヒトの身体や心に不倫や浮気をもたらす要因があるとはいえ、すべてのヒトが必ずしも不倫や浮気をするというわけではない。それでは、どのようなヒトが、どのような瞬間に不倫や浮気に移るのか。以下では、不倫や浮気に至る要因と、その瞬間についてみていく。

4.心を奪われるとき

不倫・浮気をする要因

 不倫や浮気のしやすさは、ヒトによって異なる。しやすさの要因には、先天的なもの(すなわち生まれながらに定まっているもの)もある。具体的には、性欲のもととなる男性ホルモンである『テストステロン』の量、快楽のもととなる『ドーパミン』の量、不安のもととなる『セロトニン』の量、そして、交際相手に対する愛着のもととなる『ヴァソプレッシン受容体』の量である。

・テストステロン(性欲)

 男性ホルモンのひとつであるテストステロンは、浮気を誘発させる最大の要因のひとつである。テストステロンは女性にも少なからず存在しており、女性の身体は繊細なため男性よりも少ない量で影響が生じる。テストステロンが多ければ多いほど、性欲が強くなる傾向にある。
 なお、テストステロンの量は先天的に決まっているだけでなく、後天的に、周囲の環境によっても変化する。例えば、スポーツの試合を観戦し、接戦の末に応援しているチームが勝ったときは一時的に上昇する。

・ドーパミン(快楽)

 ドーパミンは、衝動性や好奇心、楽観主義、旺盛なエネルギーや情熱を決定する神経伝達物質である。ヒトは恋をするとドーパミンを分泌し、多幸感や高揚感を覚える。男性ホルモンであるテストステロンが主に性行為を求める要因になるのに対して、ドーパミンは性行為にいたるまでの過程でも快楽を得ることができるため、恋愛の過程全体を楽しむ要因となる。

・セロトニン(不安)

 セロトニンは脳内で分泌される神経伝達物質のひとつで、『不安』に関係する要因となる。男性の場合は女性よりも50%多くセロトニンを生産することができるので、女性よりも不安になりにくい傾向がある。女性はセロトニンの分泌が少ないゆえに、『不安を感じる』『何かに依存したくなる』といった特徴が現れやすい。セロトニンが不足すると、不安を解消させるために占いに安心を求めたり、ブランド品に頼るようになる。反対に、セロトニンが多い場合には、“あっけらかん”とした性格になりがちで、『なるようになる』とさばさばした性格になる傾向がある。

 交際相手がいる場合、セロトニンが少ないと『もう愛してもらえない』『優しさが感じられなくなった』といった不安から不倫や浮気におよぶことがある。身体的な快楽よりも精神的な安心を求めて不倫や浮気に向かう要因となる。

・ヴァソプレッシン1a受容体(愛着)

 『ヴァソプレッシン1a受容体』は、脳内の脳下垂体後葉から分泌されるホルモンの一種である。性行為などによって脳内で多く分泌される。この受容体が多いと性的快感が大きな報酬となって交際相手に対する強い愛着が生まれ、一夫一妻制を維持する絆が形成されやすい。動物実験によると、ヴァソプレッシン1a受容体を増やすと不倫・浮気をせず、減らすと不倫・浮気が多くなったことが確認されている。ヒトの場合、ヴァソプレッシン1a受容体が少ない場合は、多い場合と比べて離婚率に2倍以上の開きが生じる。

 これら4つの要素により、不倫や浮気をしやすいヒトとそうでないヒトが存在する。(上述したように、体内の免疫システムを構成するHLA遺伝子のパターンの類似率も、カップル・夫婦の不倫・浮気のしやすさ(されやすさ)に影響している)

 なお、上述した先天的な理由以外にも不倫・浮気を招く要因がある。統計上、結婚前に性行為の経験が多い場合ほど、結婚後に不倫・浮気することが分かっている。20歳~39歳の女性を対象にアメリカでおこなわれた調査では、結婚前に性行為の経験がなかった女性と比較して、1~3人の性行為の経験があった女性では4倍、4人以上の経験がある女性では8.5倍の不倫・浮気をする危険性があることが分かった。さらに、同棲経験がある場合は、ない場合と比べて不倫・浮気の危険性が5倍になることも分かっている。

 男性と女性の不倫・浮気には、それぞれ相手に求めることが異なる傾向がある。一般的に、男性の不倫・浮気は『性欲ありき』である。すなわち、女性の身体が目的である。家庭で『良き夫』や『良き父』であることと、家庭外で性的な関係にある女性をもつことは両立させやすいため、ふとしたきっかけで簡単に不倫や浮気に移りやすい。これに対して女性の不倫・浮気は、『相手ありき』である。すなわち、性欲に基づく身体の関係よりも、相手との関係性(信頼関係)に依存することが多い。場合によっては“帰る場所”が不倫・浮気相手そのものになりうるので、家庭と両立することは困難となる。

恋に落ちる瞬間

 不倫や浮気を禁ずる社会規範(倫理や道徳、法律)があってもなお、上述した要因から、ふとした瞬間に恋(不倫・浮気)に落ちることがある。それでは、ヒトはどのような瞬間に不倫や浮気に落ちるのだろうか。

 恋をした際に、脳内では快楽を生じさせるドーパミンが分泌される。心拍数が過度に高まる恋愛は、少なからず身体に負担をかけることになる。身体には、常に健康になろうとする作用(=ホメオスタシス)が働いているので、特定の異性に恋心を抱いた後には、身体に負担をかける“ドキドキ感”はホメオスタシスによって少しずつ抑えられていくことになる。一般的に、高まったドーパミン濃度は1~2年ほどで元の状態に戻るといわれている。それゆえ、ドーパミンの濃度が恋をする以前の状態に戻るまでは高揚した気分でいられるが、恋愛開始から1~2年以降は恋愛感情が冷めて不倫や浮気に流れやすくなる。

・男性が不倫や浮気に流れる瞬間

 実験によると、男性が美人を見ると判断力が低下することが分かっている。男性ホルモンのひとつであるアンドロゲンの血中濃度が高い場合は魅力的な女性の写真を見ると判断力が低下し、不利な取引でも受け入れる傾向が強くみられる。つまり、美しい女性を見ることで倫理や道徳、法律に抵触する罪悪感に鈍くなり、不倫や浮気に流れやすくなる。

 また、実験によって、男性は排卵期の女性に強く惹かれることも分かっている。ある実験では、女性の受精能力が高くなる時期、つまり月経の初日から数えて13~15日目に、女性にTシャツを着て眠ってもらった。次に、同じ女性に新しいTシャツを渡し、受精能力が活発に働かない月経初日から21日目~22日目にかけて着て眠ってもらった。

 男性にそれぞれのシャツの匂いを嗅いでどちらが好ましいかを尋ねると、複数回の実験の中で全員が迷うことなく受精能力が高い排卵期に着たシャツを選んだ。
 この実験結果から、女性が排卵期の場合は男性が特にその女性に対して魅力を感じることになるので、それだけ不倫や浮気に流されやすくなることが分かる。

・女性が不倫や浮気に流れる瞬間

 女性が男性のどの部分に性的な魅力を感じるかもまた、時期によって変化する。妊娠可能性が最も高くなる排卵の前後の数日間は、筋肉質で背の高い男性に強く魅力を感じることが確認されている。このような男性は、女性にとってパートナーとなるのにふさわしい健康と体力を備えており、元気な子どもをつくるのに適している遺伝子を持っていると推測されるためである。
 なお、女性は排卵期には性交相手を探し、排卵期以外は配偶者(=経済的な支援を期待できる相手)を探す傾向があることも確認されている。すなわち、女性は排卵時期に近付くほど、性行為目的で不倫や浮気に流されやすくなる。

 女性にとって、『性行為をおこなう相手』と『結婚する相手』は、それぞれ別の存在と認識されやすい傾向にある。月経期間のいずれにおいても結婚相手に対する好意に変化はないが、排卵期にのみ、性行為をおこなう男性を求める傾向がみられる。

 もっとも、調査によると性的魅力が非常にあふれている交際相手と付き合っている女性の場合は、排卵期になっても他の性交相手を求めることはなかった。つまり、既存の交際相手が極めて理想的かつ魅力的であれば、女性に不倫や浮気の意志は生じない。

 なお、女性が浮気する確率は、10代後半、20代前半、20代後半と年齢を重ねるにつれて減少していく。しかし、20代後半を境に、30代、40代と歳をとるにつれて増加していく。これは、女性の中で男性ホルモンのひとつであるテストステロン(=性欲を高めるホルモン)が増加していくことが要因としてあげられる。男性が女性の身体を強く求めるのはこのテストステロンが要因となっており、このホルモンが30代以降の女性にも多くみられるようになる。それゆえ、女性は30歳を超えたあたりから不倫・浮気の可能性が高くなっていく。

5.不倫・浮気の快楽


 現代社会において、不倫や浮気には一定のリスクやコストがある。例えば、不本意な転職や失職、別居、離婚、子どもとの離別、慰謝料、恐喝、暴力、殺人などである。アメリカでは妻の不倫(およびその疑い)による夫の暴力が、配偶者殺害の発生原因の約3割を占める。
 不倫や浮気に一定のリスクやコストがあるにもかかわらず、なぜ不倫や浮気はなくならないのか。それは、不倫や浮気に特有の“快楽”があるためである。

不倫・浮気の動機の分類

 一般的に、不倫や浮気の動機は主に以下の4つに分類することができる。

・純粋型
今の交際相手よりも魅力的な相手に出会い、恋をしたいという動機。

・復讐型
 今の交際相手に不倫・浮気された(もしくは冷たくされた)ことに対する仕返しをしたいという動機。

・初期化型
 今の交際相手との関係が行き詰まり、どうすれば良いのかが分からないときに、心機一転で気持ちをリセットしたいという動機。

・自己陶酔型
 自身の価値を確認したい(より高く評価されたい)という動機。

 上記のいずれの動機に基づく不倫や浮気であっても、今の交際相手からは得られることのない快楽を得ることができる。すなわち、今の交際相手よりも魅力的な相手と心身ともに交われる快楽や、復讐によって得られる快楽、さらには初期化によって得られる快楽、そして自分を高く評価する相手に求められることによって得られる快楽などである。

特殊な状況が生み出す心理状態

 不倫や浮気には、『錯誤帰属』という状態によって生じる快楽もある。錯誤帰属とは、吊り橋効果やロミオとジュリエット効果にみられる心理状態である。吊り橋効果は、男女が高く不安定な吊り橋を渡ろうとする際に緊張状態(いわゆる“ドキドキ”した状態)となり、そのドキドキが相手に対する恋愛感情と錯覚させ、相手に恋愛感情を抱くという効果である。ロミオとジュリエット効果は、交際を反対されればされるほど(もしくはふたりが結ばれるのに障害があればあるほど)、相手を想う気持ちが強くなる効果である。ロミオとジュリエット効果の場合もまた、反対されることによって生じるドキドキが、相手に対する恋愛感情と錯覚させる。
 不倫や浮気の快楽は、不倫や浮気を禁止する倫理や道徳もしくは法律に背くことによって生じるドキドキも要因となって生じる。すなわち、『不倫や浮気はダメだと分かっている“けど”、快楽を感じてしまう』というよりもむしろ、『不倫や浮気はダメだと分かっている“から”、快楽を感じてしまう』という解釈のほうが真実に近い。こうした背徳感に、これまでに経験したことのない相手の身体、感触、香り、空間、言葉などの新鮮さがもたらす刺激が加わり、より大きな快楽へと変わる。

 なお、一度でも不倫や浮気を経験すると、次からは他の既婚者も恋愛(=性行為)の対象に入るので、再び不倫や浮気をする確率が高くなる。20代~30代の女性の場合、豊富な人生経験と高い経済力を持つ年上の既婚男性との不倫を経験して快楽を得ると、相対的に未熟といえる同世代の男性に魅力を感じにくくなる。そのため、『苦楽をともにしながら互いの関係性を育てていく』ではなく『既に完成している異性を楽しむ』という男性観が浸透するようになる。こうなると是正は難しくなり、そのまま年齢を重ねて婚期を逃すというケースも生じる。

快楽に抗(あらが)う難しさ

 不倫や浮気によって得られる快楽を抑えることは、脳の構造上、困難である。
 ヒトの場合、恋人の写真を見ると脳内にある“腹側被蓋野(ふくそくひがいや)”という領域が活発化し、快楽を得る。この領域は覚醒剤を使用した際にも活発化する領域で、ネズミを用いた実験によって高い中毒性が確認されている。ネズミを使った実験では、ネズミの腹側被蓋野(ふくそくひがいや)に電極を通し、ボタンを押すことで電流が流れて快楽を得られる仕組みを作った。最初に実験者がボタンを押してネズミに快楽を与え、その後はネズミがボタンを押せる状態にして、ネズミにボタンを押させる。すると、ネズミは快楽のあまり何度もボタンを押すようになる。やがて食事をすることも睡眠をとることも忘れ、最終的には衰弱死する。

 脳内の腹側被蓋野(ふくそくひがいや)が刺激されることにより、ドーパミンが放出される。ドーパミンが引き起こすのは、単なる『好き』や『気持ちいい』という感情ではない。ドーパミンに関しては、2005年ごろまでは『快楽』を司る神経伝達物質と考えられていた。しかし最新の研究では、ドーパミンは単なる『快楽』を司る神経伝達物質ではなく、“対象物への執着心、すなわち何かを獲得したいという衝動”を本能的に生じさせる物質であることが分かっている。すなわち、ドーパミンが分泌される『恋』という状態は、感情を生じさせるにとどまらず、ある対象物を得ようとする、ヒトに生得的に備わる基本的な渇望や衝動を生じさせる。

 例えば、ヒトが空腹のときに食事をとるという行為は、『感情』に基づく行為ではない。具体的にいえば、喜怒哀楽という感情のうち、“喜んでいる”から食事をとるわけではなく、“怒っている”から食事をとるわけでもない。同様に、“哀しんでいる”から食事をとるわけでもなく、“楽しんでいる”から食事をとるわけでもない。
 空腹時に食事をとるのは、感情とは異なる、純粋な『得たい』という渇望・衝動に基づく行動である。恋は『好き』という感情を発生させるだけでなく、ドーパミンによって『対象物(つまりは相手)の獲得』という渇望・衝動を発生させる。これは言い換えれば、恋が生じさせる不倫や浮気という行為は、感情を制御する技術や理性だけでは防ぐことが困難であることを意味している。例えるなら、感情を制御できるヒトであっても食事を永続的に我慢することが極めて困難であるのと同じ理由である。
 これこそが、不倫や浮気を防ぐことが難しい、脳科学の観点からの答えである。

6.「人と付き合う」ということは、「ヒトと向き合う」ということ


 社会の中で人(とりわけ異性)と付き合っていくということは、つまりはヒトの生物としての本質(=性の特徴)を知り、それに対応していくということである。

 これまでに見てきたように、ヒトの身体や脳には、不倫や浮気をもたらす特徴や機能が多く存在している。もともと乱婚の種族であったことからオスはその形質(身体的特徴)を今も男性器に残し、そして、交際相手以外の異性を求める要因が先天的に強く組み込まれているケースもある。また、不倫・浮気には特有の強い快楽があり、脳の構造上、感情を抑える技術だけでは対策が困難という側面もある。こうした理由から、ヒトには今もなお、浮気や不倫をおこなう性質が強く残っている。

 もっとも、『不倫や浮気をする(しやすい)特徴』がありながらも、ヒトは理性を生み出す『大脳新皮質』を進化の過程で獲得した。あらゆる生物の中でヒトだけが唯一、意識的に本能を抑えることができる。また、理性ゆえに、これまでにさまざまな文化や風習、倫理・道徳的規範をつくりあげてきた。

 ヒトの社会には、他のどの生命の社会にも見られない規範(ルール)が存在している。例えば、『人と会ったら挨拶をする』『人の悪口を言わない』『髪を奇抜な色に染めない』『外出するときは服を着る』などである。それらの中には合理的な理由や根拠が伴わないものもあるかもしれないが、『ルールを守る』という認識が互いにあるからこそ、社会は今日まで発展し、その安定が保たれてきた。

 不倫や浮気はヒトの本質のひとつであることから、生物学や脳科学の観点からは非難する術(すべ)はないが、こと社会学の観点から考えると、人が今後どのような社会を形成していくかを考える上で、不倫や浮気との向き合い方を考える必要があるといえる。不倫や浮気のリスクやコストは、『嫌がる人がいる』という範囲にとどまらず、『社会の安定を崩壊させる(ルールの破壊)』という範囲にまでおよぶ。

 不倫や浮気とは、ともすると生命がもたらす自然現象のひとつに過ぎず、それはまるで、木からりんごが落ちる(=『重力』という物理現象のひとつの)現象のようなものかもしれない。

 不倫をする(した)立場にせよ不倫をされる(された)立場にせよ、何を非難し、何を守っていくべきかについては、今後、ヒトの生物としての本質が未だ社会の規範(ルール)と合致していないこの社会を生きる一人ひとりが向き合っていかなければならないことである。

ヒトはどうやって、誰と生きていくべきか

 生命の目的は繁栄にあるが、ヒトは進化の果てに、それ以外の楽しみや生き方を知った。きれいなものを見る幸せや誰かに優しくされる幸せ、楽しい会話ができる幸せやぜいたくに暮らす幸せなど、本来であれば生命が最優先しなければならない生存と生殖に不可欠な免疫システムにこだわらずとも、そして子孫を残さなくとも、ヒトは今、その生涯を幸せに生きていくことができる時代(社会)となった。
 ずっときれいなものをみておきたいのであれば相手を容姿で選ぶのも良し、ずっと優しくされたいのであれば性格で選ぶのも良い。また、ずっと会話で盛り上がっていたいなら趣味で選ぶ、ずっとぜいたくに暮らしたいなら財力で選ぶなど、人との付き合い方、つまりは生き方は多種多様である。

 5億年にわたる有性生殖の歴史や、700万年にわたる人類の歴史と比べると、人類が築いた文明(すなわち倫理や道徳)の歴史は極めて浅い。それゆえ、築かれた規律や規則の中には、生命の本質や原則に必ずしも適しているといえないものもあるかもしれない。それでも人は、この社会で生きていく上で、ヒトの本質を理解し、何を得て何を犠牲にするのを考えなければならない。自身の快楽を得るのか犠牲にするのか、大切な家族を守るのか捨てるのか、社会の安定を維持するのか崩壊させるのか―――。
 社会で生きていくということは、つまりはヒトと向き合っていくということなのだから。

◇参考文献
理系総合のための生命科学 第4版(東京大学生命科学教科書編集委員会)
生命の跳躍――進化の10大発明
人間の性はなぜ奇妙に進化したのか
ぜんぶわかる脳の事典―部位別・機能別にわかりやすくビジュアル解説
脳科学は「愛と性の正体」をここまで解いた
脳はいいかげんにできている
快感回路—なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか
科学でわかる男と女の心と脳
LOVEって何?―脳科学と精神分析から迫る「恋愛」
愛は化学物質だった!?
オキシトシン: 私たちのからだがつくる安らぎの物質
はじめての不倫学 「社会問題」として考える
大人の「不倫学」
人はなぜ不倫をするのか
人はなぜSEXをするのか?―進化のための遺伝子の最新研究

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