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哺乳類と鳥類の脳サイズは、同じ大きさの魚類や両生類と比較して10倍~20倍も異なる。

 ヒトを含む哺乳類と鳥類は、同じ大きさの魚類や両生類と比較して10倍〜20倍の大きな脳を持っている。哺乳類と鳥類の中に高い学習能力や社会性を持つ動物が多く見られるのは、大きな脳を持っているからだと考えられている。
 なぜ、哺乳類と鳥類だけが脳を大きく進化させることに成功したのか。過去の研究では、脳の進化の道筋を制御する要因として、脳の発達方法があげられていた。しかし、この仮説の検証はこれまで行われてこなかった。最新の研究では、4,500種を超える脊椎動物の脳サイズと体サイズのデータを基に脳サイズと体サイズがどのように関係しているかが比較されている。研究の結果、哺乳類と鳥類のみ脳の成長が体の成長から分離していることが分かっている。

統計から分かる“身体の大きさと脳の大きさの関係”

 最新研究では、4,500種のデータを使って『大きい動物は大きい脳を、小さい動物は小さい脳を持つ』という関係がすべての脊椎動物で共通していることが示されている。この関係は、“アロメトリー”と呼ばれている。アロメトリーとは、生物の身体の大きさにかかわらず、2つの要素(例えば身長と体重)の間に成立する関係を指す。

(出典:総合研究大学院大学)

 色と縁の異なる多角形は、それぞれの分類群に属する動物のうち95%の体サイズと脳サイズを内包する範囲を示している。この図は、大きな脳が大きな体とともに進化してきたことを示している。また、鳥類と哺乳類が、同じ大きさの爬虫類や両生類、硬骨魚類と比較して大きな脳を持っていることも示している。ある研究チームが推定したアロメトリー係数に基づくと、500gの体重を持つ平均的な哺乳類と鳥類の脳はそれぞれ5.73gと4.69gだが、同じ大きさの平均的な硬骨魚類の脳(0.59g)と比較すると、約8倍〜10倍の重さとなっている。

 以下のグラフは、脳サイズと体サイズの関係が哺乳類や鳥類とそれ以外の分類群でどのように違っているかを示している。

(出典:総合研究大学院大学)

 研究結果から、哺乳類や鳥類と硬骨魚類では同じ種の成体の間で見られる脳サイズと体サイズの関係が大きく異なっていることが分かっている。具体的には、哺乳類と鳥類では体の大きさにかかわらず成体の脳サイズはおよそ一定であるのに対して、魚類では大きな成体は小さな成体よりも脳サイズが大きい傾向にある。これは、哺乳類と鳥類の脳が体の成長とは独立して発達している一方で、魚類では脳と体が一緒に発達していることを示している。

哺乳類・鳥類と、魚類の成長期間の違い”

 それでは、哺乳類と鳥類はどのように脳の成長を体の成長から分離させたのか。この点に関して、研究チームはさまざまな発育段階にある動物の脳サイズと体サイズのデータを収集して、脳が体の成長と共にどのように発達して成体に至るのかを比較検討した。

(出典:総合研究大学院大学)

 その結果、発生初期段階から一定のサイズになるまで脳サイズが急激に成長し、その後は脳サイズの成長が減衰して体サイズの成長が加速的に進んで成体になるという2段階構造の成長線があることが分かった。また、この構造は哺乳類と鳥類、そして魚類で共通していることが分かった。
(上図の破線は発生初期から減退成長期までにおける脳サイズと体サイズの関係を、実線は減衰成長期における脳サイズと体サイズの関係をそれぞれ示している。)

 哺乳類と鳥類は、加速成長期を大きく延長している点で魚類と異なっていることも分かった。例えば、魚類のマダイとコイが加速成長期を終えるとき、体の大きさはそれぞれ0.04gと2.9gである。これと比較して、加速成長期を終えるときのニワトリの体は14g、カンガルーでは約1kg、ヒトでは約9kgと、魚とは大きく異なっている。哺乳類と鳥類は急激な脳成長を伴う加速成長期を著しく延長することで、体サイズを変えることなく脳サイズを大きく進化させることに成功している。

脳の特殊性をもたらした、独自の進化

 最新の研究では、哺乳類と鳥類の大きな脳が特別な発育様式を通じて進化してきた可能性を示している。なお、この発育様式そのものの進化がなぜ魚類や爬虫類、両生類で起こらなかったのかについては未だ明らかにはなっていない。しかし、この問いに対する答えは脳が発育に膨大なエネルギーを必要とする器官であることと関係している可能性が高いと考えられている。
 断続的な養分供給を必要とする脳の発達には、長期間にわたる胎児へのエネルギー供給が不可欠となっている。哺乳類と鳥類は、この問題を親による子への養育によって解決している。これは、哺乳類や鳥類ほど熱心に子を養育する脊椎動物が他にいないことと無関係ではない。

 最新の研究成果は、ヒトが進化してきた過程を探る上で重要な発見となっている。ヒトは進化の過程で脳のサイズを巨大化させ、これが言語や文化の創出を可能にした。
 ヒトの脳の進化を解明するカギは、脳の発育の最初期段階にあると考えられている。最新の研究結果は、ヒトが言葉や文化を持たなかった類人猿の共通祖先からどのように進化してきたかを理解する上で重大な発見につながるかもしれない。

◇参考サイト
国立大学法人総合研究大学院大学

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