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社会人類学者デヴィッド・グレーバーが語る『どうでもいい仕事』に追われてしまう理由

 社会人類学者のデヴィッド・グレーバーは、自身の著書で以下のように主張する。

 1930年、経済学者のケインズは20世紀末までに技術発展によって、イギリスやアメリカのような国では週15時間労働になるだろうと予言した。すなわち、1日の労働時間は3時間になる。しかし、現実にはそのようなことにはならなかった。技術の発展はむしろ人々をさらに働かせるために利用され、無意味で『どうでもいい仕事』が次々と生み出された。

 20世紀になって増えた雇用といえば、専門職・管理職・事務職・販売職・サービス職など。特に管理系の仕事が増え、金融サービスやテレマーケティングなど新しい情報関連産業が創出された。また、会社法部門、大学の管理部門やヘルスケアの管理部門、人事、広報などの部門も拡大した。

蔓延する『どうでもいい仕事』

 グレーバーによると、これらが『どうでもいい仕事』であり、こうした仕事は担当している本人たちも何の役に立つか分からないという。
 イギリスの調査会社YouGovが調査した結果、労働者の37%が『社会に対して意味のある貢献をしている』と思っていないことが分かった。50%は『自分の仕事が有用だ』と考えていたが、残りの13%は『わからない』と回答した。

 グレーバーは、こうした『どうでもいい仕事』をしている人々は自分たちの仕事が無意味でくだらないと思いながらも働き続けるという。なぜならば、働くこと自体に道徳的な価値があり、規律を守って長時間働かない人間は価値がないと考えられているからだ。このような考え方は、支配階級にとっては極めて都合がいい。

『本当に役に立つ仕事こそ、賃金が低い』

 グレーバーはいう。『企業は現実に何かを作り、運び、直し、維持する人々をリストラしてきました。一方で、多くの人たちが書類上では週に40~50時間働いていることになっていますが、実際に効率的に働いているのは15時間程度です。残りは自己啓発セミナーに出席したり、フェイスブックのプロフィールを更新したりと無駄に時間を過ごしています』

 グレーバーは著書で典型的な『どうでもいい仕事』をあげている。例えば、受付係やドアマンなどの『太鼓持ち(Flunkies)』である。これは、自分が重要な人物だと思わせるために存在している職業だ。
 もうひとつは、ロビイストや企業弁護士、広報などの『雇われ暴力団員(Goons)』である。これらは、雇用主のために攻撃的に活動する職業である。その他にも、中間管理職などの『ムダな仕事製造係(Task Makers)』などをあげている。

 そしてグレーバーは、本当に役に立つ仕事をしている人々が報われない社会になっているという。
 『この社会は、本当に意味のある仕事をしている人が、怒りのはけ口になるような社会です。例えば、看護師やゴミ収集者や機械工はいなくなってしまったら困る職業です。その一方で、プライベートエクイティのCEOやロビイストやPRリサーチャー、テレマーケティング担当者、法律コンサルタントなどの職業は消えてしまっても、我々はたいして困らないでしょう。むしろ社会は良くなるかもしれません。しかし医師のようなわずかな例外を除いて、意味のある仕事をしている人ほど賃金が低くなっています』

 日本でも、保育士や介護士の平均年収は300万円代前半程度と低い。保育士や介護士などの職業は、人のケアをして命を預かる重要な仕事をしているが賃金が低く抑えられている。一方で、グレーバーが『消えてしまってもたいして困らない』という金融サービスや法律コンサルタントの職業の年収は、1,000万円を超える場合も少なくない。

何のための労働なのか

 利益を最大化してコストを最小化するはずの資本主義社会において、何故なくても困らない『どうでもいい仕事』に賃金が支払われ続けるのだろうか。それは、経済的に意味がなくとも政治的な機能があり、富の大部分を手にした1%の支配階級にとって都合がいいからだとグレーバーは指摘する。人々が仕事に追われていれば、暴動を起こしにくい。幸福で生産的な人々が自由時間を手にすることは、歴史が物語るように支配階級にとって非常に危険だと考えられる。
 このような社会のシステムは、意図的に設計されたわけでなく一世紀におよぶ無策によって出現したという。グレーバーは解決策を示すことにためらいつつも、人々がどうでもいい仕事から解放される手段として、ベーシックインカムに言及している。

 グレーバーは、名門ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の教授であると同時に、アナキスト、活動家としても知られている。2011年にニューヨークで起きた抗議活動『オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街を占拠せよ)』の理論的主導者でもあり、『われわれは99%』というスローガンを創出したひとりである。

 グレーバーの主張に対しては、『頭のおかしい陰謀論』や『そんなことは以前から言われている』といった批判も多くよせられている。また、著書には『どうでもいい仕事』に就くホワイトカラーを揶揄するような記述もみられ、不快な気持ちになる人もいるかもしれない。さらに、本当に『役に立たない』という疑問も出るといえる。

 グレーバーの著書には過度な主張も多いが、著書の邦訳が出版されれば日本でも話題になるかもしれない。

◇参考サイト
現代ビジネス『何のための労働なのか』(藤田結子《明治大学教授》)

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