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サブプライム問題と主体力学

 21世紀最大の金融危機を生じさせた『サブプライム問題』は、企業が利益を追い求めて活動する際にどのような結果をもたらすかを知るために有意義なモデルケースとなる。
 以下では、サブプライム問題を引き起こすに至ったアメリカ経済の内実や、サブプライム問題がアメリカ経済をはじめとした世界経済にどのような影響を与えたのかについてみる。

金融産業の発展

 1980年代前半、アメリカ政府は大幅な財政赤字のため、資金を民間市場(個人や企業)から調達しなければならなかった。政府による市場での資金調達は市場の資金需要を高めることになり、アメリカ国内の金利は上昇した。金利の上昇に伴ってドルに対する需要も高まり、国際市場においてドル高となった。このドル高により、利益率がそれ程高くない製造業では高い金利水準を上回る利益率が確保できずに事業運営が困難となっていった。
 そんな中、アメリカのゼネラル・エレクトリックなどの製造業企業は事業構成を改変し、収益率の高いサービスや金融に重点を置くようになった。これにより、製造業企業の工場は海外に移転され、国内には収益率の高いサービス・金融部門が残るようになった。投資銀行は、こうした製造業企業の事業構成の改変をM&A(企業の合併・買収)等を通じて従来以上に支援する構造をつくった。
 こうして1980年代の投資銀行の活躍によってアメリカでは金融産業が発展し、金融産業界の規制緩和や新たな金融技術・商品の開発により、アメリカ国内で多様な金融業が急成長することとなった。

製造業の衰退

 製造業の海外依存および国内産業の金融業への移行により、アメリカ国内では全産業の内、製造業に従事する人口の割合は低下していった。1970年には26,4%であった製造業への従事者は、2009年には10,2%となっている。なお、1990年の時点でアメリカの製造業の国内総付加価値額の割合は16,7%であり、金融・保険・不動産業の18,8%と比較すると、アメリカの主要な産業が製造業ではなく金融・保険・不動産業となっていることがわかる。アメリカでは高い利益率を追求した結果、主要な産業を製造業から金融業へと移行させることとなった。

金融産業を発展させた社会的背景

 1929年に金融大恐慌を経験したアメリカでは1933年以降、法律によって預金者の資産を運用する商業銀行と、投資家を対象として株や債権の仲介取引を行う投資銀行とを区別していた。商業銀行が自身の判断で融資や投資を行い自らリスクを抱えるのに対して、投資銀行は投資家にリスクを負わせる。そのため、投資銀行の収益率は商業銀行よりも高くなる傾向にある。
 1970~80年代には金融自由化がなされ、これによって投資銀行が行う“他人資本(=他者の財産)による投資(レバレッジ投資)モデル”が強化されることになった。
 1999年になると、商業銀行と投資銀行の法的な区別が廃止された。これにより、商業銀行が投資銀行と同じ業務を行うことが可能となり、商業銀行も高い利益率を求め、“他人資本による投資(レバレッジ投資)”を行うようになった。他人資本を利用することで自身がリスクを負わずに高い収益率を実現できる投資モデルが容易に利用できるようになったことから、銀行以外にも多くの企業が利益を求めて金融産業に参入することになった。そんな中、さらなる利益を求めて金融市場の投資家向けにある金融商品が開発された。その金融商品こそが、『サブプライムローン』を組み込んだ証券である。

サブプライムローンとは

 『サブプライム』とは、“信用度が低いために一般的な銀行では資金の融資を受けられない層”を差す言葉である。これら“信用度の低い”層を対象に融資を行い(すなわち資金を貸し付け)、金利を得るローンが『サブプライムローン』である。なお、一般の銀行が融資を行わないほどの“信用度の低さ”ゆえに、融資を行う側は高いリスク(すなわち返済不確実性)を背負うことになる。『サブプライムローン』では、“一般的な銀行が引き受けない高いリスク”を引き受ける代わりに、金利は一般的な銀行が求める金利(利息)よりも高い水準に設定された。このような高い金利は、サブプライムローンの特徴の一つである。
 サブプライムローンは貸し手が高いリスクを背負うのと引き換えに、貸し付けた相手から高い金利(=利益)を得ることができる点が特徴である。この点、貸し手が高いリスク(返済不確実性)を背負うことになるため、その貸し手(=債権の売り手)は引き受け手(=債権の買い手)を見つけることが課題となった。

 そこで考え出されたのが、高度な金融工学の技術を用いたサブプライムローンの“債券化”である。金融工学とは、工学系の分野で用いられる統計学や確率論を活用することで株式や債券などの金融商品の価格を算出する学問分野である。金融機関はこの金融工学を用いてリスクの異なる複数のローン債権を一つにまとめ、これを担保に証券(債権)を発行して投資家に販売していった。こうして金融工学を用いたローン債権の証券化により、貸し手は債権を現金化できるとともに、債権が不履行となる危険性を投資家に転化することが可能となった。また、金融工学を駆使することで債券が有している高いリスク(返済不確実性)を認識できないほどに細分化し、他のリスクの低い(すなわち返済可能性の高い)証券と組み合わせて1つの商品として販売することで、債券の買い手にリスクを認識させない工夫が施された。
 その結果、この証券は民間格付け会社からは“最も信頼できる”トリプルA評価を受け、世界中の投資家に販売されることとなった。なお、サブプライムローンではリスクを他者に転化することから、資金力の乏しい金融機関でも高いリスクの融資を提供することが可能となった。そのため、金融市場に参入する企業をさらに増加させることになった。こうしてアメリカでは収益率の高いレバレッジ投資が拡大していくことで、2007年には全産業の利益のうち、金融業が占める割合が40%を超えた。

サブプライムローンの登場後

 サブプライムローンの登場により、低信用者である低所得者は自身の所得を上回る価格の住宅を購入できるようになった。多くの低所得者が住宅を購入できるようになったことから市場における住宅価格は上昇し、それに合わせて既に購入している住宅の担保価格も上昇した。これにより、低信用・低所得者は価格が上昇した自身の住宅を担保に、銀行からさらなる融資を受けることが可能となった。こうして、低所得者は自身の収入以上の金額を消費に使うことができるようになった。
 そんな中、借りたお金を返すことのできない低所得者(=債務者)が現れだした。借りたお金を返すことができない、つまりは債務が不履行になると、投資家や企業が所有していた債権は無価値となる。債務不履行になる低所得者が現れだしたことで、投資家や企業が債権として所有していた『資産・財産』は無価値となり、損失を被ることになった。また、投資家や企業が損失を被ると同時に低所得者の消費が滞り、企業が有する資産価値と売上が減少することで財務基盤が揺らぐことになった。債権を失った企業の損失は大きく、多くの債権を有していた投資銀行の一つである『リーマン・ブラザーズ』は、6,130億ドル(約63兆円)の負債を抱えて倒産した。これを期に、アメリカ経済は大きく停滞することになる。
 日本の経済市場では市場の総需要のうち個人消費の割合は3割程度(残りの7割は企業と政府による消費)であるが、アメリカでは国内市場の総需要のうち7割を個人消費が占めている。そのため、アメリカ経済において個人消費が停滞することは、アメリカ経済全体の大きな停滞を意味した。なお、金融危機の中心となった投資銀行もその影響を避けられなかった。投資銀行最大手のゴールドマン・サックスと第二位のモルガン・スタンレーは投資銀行から商業銀行(銀行持ち株会社)へ移行し、業界第三~五位のメリルリンチ、リーマン・ブラザーズ、ベアー・スターンズはそれぞれ買収された。これにより、アメリカの五大投資銀行の全てが金融市場から姿を消すこととなった。
(参考文献:金融大崩壊―「アメリカ金融帝国」の終焉 (生活人新書)

“利益を求める活動”と“世界経済の停滞”

 『サブプライム問題』による損失は、国際連合の機関の一つであるIMF(国際通貨基金)によると、アメリカ・ヨーロッパ・日本における金融市場で2007~2010 年の累計でおよそ397兆円を超えるといわれている。

 利益を求める意志が金融工学の技術を進歩させ、アメリカを金融大国へと変化させた。そして、金融工学の技術は結果的に、経済市場において大きな損失を生じさせることとなった。このサブプライム問題は、利益を追求する活動が結果的に、自国を含む世界経済全体を大きく停滞させることにもなりうることを示すモデルケースとなった。

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