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“好み”を決定づける要因(2)“保有効果”

 好みを決定づける要因として、単純接触効果(回数効果)以外にも、“保有効果”を挙げることができる。保有効果とは、対象物を保有している時間が長くなればなるほど、それらに対する好感度が高まる効果を意味する。この効果は、心理学者でもあり行動経済学者でもあるダニエル・カーネマンやクネッチの実験によって確認された。カーネマンやクネッチは、保有が人の“好み”にどのような影響を与えるかを確認するために次のような実験を行った。

実験の概要

 実験者(カーネマンとクネッチ)は、無作為に集めた集団を3つのグループに分けた。第一のグループにはマグカップを与え、第二のグループにはチョコレートバーを与えた。そして、第三のグループにはマグカップとチョコレートバーの内、欲しいものを自由に選択させた。この結果、第三のグループは、ほぼ半数がマグカップを選び、残りのほぼ半数がチョコレートバーを選んだ。このことから、マグカップとチョコレートバーの価値(=市場での人気)は、ほぼ等しいといえる。

 次に、マグカップを与えたグループに、希望すれば自身が所有しているマグカップをチョコレートバーに取り換えられることを伝えた。なお、交換には手間や時間がかからないよう工夫された。これと同様に、チョコレートバーを与えたグループにもマグカップと自由に取り換えられることを伝えた。すなわち、チョコレートバーを希望する人はいつでもチョコレートバーに取り換えることが可能であり、マグカップを希望する人はいつでもマグカップに取り換えることが可能となる環境を整えた。

 この結果、マグカップを与えられたグループでは89%の被験者がマグカップを保有し続け、チョコレートバーと交換したのは11%だった。また、チョコレートバーを与えられたグループでは90%がチョコレートバーを保有し続け、マグカップと交換したのは10%だった。

実験の結果が示すもの

 上述したように、第三のグループにマグカップとチョコレートバーのいずれかを自由に選ばせたところ、マグカップとチョコレートバーの人気は、ほぼ等しいことがわかった。それゆえ、マグカップを与えられた第一のグループやチョコレートバーを与えられた第二のグループの人たちが自由に取り換えられる状況では、第一・第二のグループでもマグカップとチョコレートバーの保有者が半数ずつになると考えらえる。しかし結果を見ると、第一・第二グループは、それぞれ89%、90%が最初に与えられたものを保有し続けていた。

 この実験結果は、『人は、所有した物の価値を所有する以前よりも大きく評価する傾向がある』ことを示している。実験者のカーネマンは後に学者のノヴェムスキーと共に、物自体に機能的な価値をもたない“代用硬貨”を用いた保有効果の実験を行った。この結果、代用硬貨では保有効果がほとんど生じないことがわかった。代用硬貨はそのものに機能的な価値を持たず(マグカップなら使用の価値、チョコレートなら食用の価値を持つ。)、なおかつ自由に現金化することができるため保有効果は生じないと結論付けられている。また、最初から転売目的で所有した物においても、保有効果は生じないとされている。これは、転売目的の物には所有者は機能的な価値を求めておらず、それゆえ代用硬貨と同じ位置付けとなっていることがその理由となっている。以上のことから、保有効果はチョコレートバーやマグカップなどの機能的な価値(おいしい、飲み物が飲めると、飾ることができるといった価値)に対して生じることがわかる。

 なお、学者のローワンスタインとアドラーも同様の実験を行っている。二人は複数の被験者にマグカップを見せ、『今後このマグカップを所有することになり、保有し続けても良いが売却することもできる。売却する場合は、いくらで売却するか』と尋ねた。その結果、売却したいと考える金額の平均は3.73ドルだった。その後、実際に被験者にマグカップを与え、保有させた後に同様の質問をすると、希望の売却額は4.89ドルに上昇していた。この実験でも、保有効果が確認された。

保有効果の弊害

 保有効果は、場合によっては人に非合理的・非論理的な判断を下させることになる。たとえば企業の中で人事異動を行う際に、より適した配置があるにも関わらず保有効果に基づく“実態にそぐわない価値”によって異動を拒むといった場合や、消費し慣れた(ときに健康を害する)食品や消耗品、嗜好品の使用を続けるといった場合などが誤った判断として挙げられる。
 以上のことから、保有効果も単純接触効果(回数効果)と同様に、利益の最大化を実現する選択を妨げるものであることがわかる。

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